試合序盤。藤岡和也(3年)は、守備から戻ってくる捕手の馬場皓史(3年)の背に手を回しながら、言った。
「ちょっとボールが先行しているな。直球でカウントを取りにいこう」
ブルペンでは調子が良かった先発の曽根瑛二だが、変化球が外れ、球数が多くなっていた。藤岡の助言を受けた馬場は、直球主体のリードに切り替え、曽根は強打の秋田商打線を8回まで3失点に抑えた。
背番号「2」。だが、石川大会でもっぱらマスクをかぶったのは、「12」の馬場だった。馬場が急成長したことに加え、「2人の捕手としての実力は互角。だが三塁コーチを任せられるのは藤岡しかいない」という監督の山本雅弘の判断があった。
試合前日の午後11時過ぎ。大阪府豊中市内の遊学館宿舎の食堂の明かりは消えていなかった。藤岡は1人で、秋田大会決勝のビデオを3回にわたり見ていた。全打者の打った球種や打球の飛んだコースを細かくメモ。「試合に出るのは馬場。ならばデータの整理だけはしっかりとやりたい」
藤岡は普段から仲がいい馬場との配球ミーティングを欠かさず、試合では大声で1球ごとにベンチから指示を出した。
9回から藤岡がマスクをかぶった。「気持ちよかった。でも、もう少し声を出さないと」と苦笑。馬場は「あいつがいてくれるから、試合に出られる」。2人は「次の試合もどっちが出てても、チームが勝てばいい。僕たちは2人で一つ」と付け加えた。
=文中敬称略