「越えろ、越えろ」。鈴木宏始君は夢中で一塁を駆け抜けていた。ぐんぐん伸びた打球は、左翼席へ飛び込んだ。右手を大きく突き上げた。
4回、2点を追加され、流れは福井商に行きかけていた。このホームランが、反撃のきっかけとなった。
県外出身者が多くを占めるチームで、先発メンバーの中でただ1人の県内出身だ。昨秋から背番号「17」。秋の県大会は出場したが、打撃は不振。春の大会は出場機会がまったくなかった。
出番が来たのは、山梨大会準決勝から。打率5割と活躍した。
試合に出るには「甘い球をフルスイング、それしかなかった」と話す。ティーバッティングやマシンでの打撃練習では、常にフルスイングを心がける。「バットを振らなければ点は入らない。だからフルスイングなんです」という。
2回に相手のスライダーを中前にはじき返し、バットはふれていた。そして4回、相手エースが立ち直りかけたところに、本塁打を浴びせて流れを引き寄せた。
7回、勝ち越しのランナーが二塁にいる場面で打席が巡る。打席に入る前、バットを力強く振ると、大きく深呼吸した。
「ここで打たなければ終わりになる」。集中力を高め、甘い球がくるのを待った。カウント2―2からの5球目。内角気味の直球を思いっきり上からたたきつけた。打球は鋭くセンターへ。これが決勝打になった。
「ただ、勝つために自分ができることだけを心がけただけです」と鈴木君。
失策が相次ぎ、一時は5点差を追う苦しい展開。チームの窮地を救ったのは、遅れてレギュラーをつかんだ鈴木君のフルスイングだった。