6回、向井友崇君の打席に絶好のチャンスが巡ってきた。無死満塁。11球粘りに粘った。だが12球目、向井君のバットは空を切った。三振。天を仰いで残念がった。
打撃の不振に苦しんでいた。山梨大会では1回戦で1本塁打を放って以降、調子を崩し、打率は2割5分にとどまった。
だが、甲子園入りしてからは違った。「センスがないから努力しかない」と宿舎近くの公園で毎日、素振りを繰り返した。「上からたたきつける」「体が開いている」。黙々と自問自答を繰り返した。
調子は戻ってきている感じがしていた。だから、14日の練習では一番最後まで打撃マシンの前に立ち続け100球打ち込んだ。そんな努力を見続けた伊藤監督は、6回無死満塁で、「打て」のサインを送った。
甘く入るスライダーを狙った。だが、相手投手・田中君は「変化球は打たれる」と、140キロ台の直球を投げてきた。「見逃し三振は絶対に嫌だ」。ファウルで粘ってタイミングを計った。はじめは一塁側内野スタンドに吸い込まれていた球は、徐々にバックネット側に近づいてきた。タイミングは合ってきていた。
だが、12球目。思っても見ない球が来た。大きく高めに浮いた139キロの直球。「勝負に夢中になって、高めを意識しなかった」。球は、バットの上を通り抜けた。
向井君は7回、交代を告げられてベンチへ下がった。そのとき、伊藤監督に深々と礼。「ここまで使ってくれてありがとうございました」。伊藤監督はただ、笑っただけだった。
6回無死満塁。この試合、日本航空の最大の好機で三振に倒れはした。だが、粘り強く球をはねかえし続けた向井君の攻めの気持ちに、スタンドからは大きな拍手と歓声がわき上がった。